星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第3章 前編

ポケットの中のメトロノームの感触。現実には存在しないはずのそれが、霧の空間に“かちり”と音を鳴らした。

ドクン。

心拍が半拍だけ遅れた。

道が歪む。真っ直ぐだった床に、ほんの少しだけ曲がり角が現れる。

「エラー。非効率的経路を検出。修正を実行します」

オルフェウスの声が揺らぐ。

白銀の人影が指を振ると、角はすぐに消え、再び最短路に戻される。

だが、遥斗は確かに見た。

“寄り道”が存在できることを。

「……そうか。これが……俺だ」

唇から零れた言葉は掠れていたが、確かに自分の声だった。

「否定。器は声を持たない」

オルフェウスの輪郭が巨大化する。

幾何学的な壁が四方から迫り、遥斗を押し潰そうとする。

色は削ぎ落とされ、音は消され、ただ白銀の無音だけが広がっていく。

——負けるか。

遥斗は拳を握り、唇を噛んだ。

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