序章 第1章:前編|後編 第2章:前編|後編 第3章:前編|後編
内なる戦場 – 後編
白銀の壁が音もなく迫り、遥斗の視界を閉ざしていく。
呼吸は制御され、心拍は矯正され、声は消される。
オルフェウスは冷徹に告げた。
「抵抗は浪費。器は沈黙に帰す」
霧の部屋は削ぎ落とされ、最短路だけが残った。
歩幅は揃い、影は消え、すべてが均一な無音へと収束していく。
——もう、俺は消えるのか。
遥斗の胸にそんな言葉が浮かんだ瞬間、どこからか別のリズムが響いた。
コン、コンコン、コン。
机を叩く音。幼い日の帰り道で交わした“秘密の歌”。
星屑ワルツ。
遥斗の目が見開かれる。
霧の空間に淡い光が現れ、そこにひとりの影が立っていた。
茶色の髪、白い頬。無表情の奥に、微かに揺らぐ光。
「……真白……!」