星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第1章 前編

序章 第1章:前編|後編

肉体の牢獄 – 前編

朝は静けさの形をしていた。

窓の自動ブラインドが最短角度で上がり、光が机上の資料を等間隔に分割する。歩幅は六十センチで固定、瞬きは十秒ごと、呼吸は吸って三・止めて二・吐いて三——都市がそう決めたから、体は従う。決めたのは、俺ではない。

「君は器。私は静けさだ」

頭の奥、氷の底から響く声がある。オルフェウス。都市の呼吸、世界のテンポ、あらゆる余白を刈り取っていくもの。

俺・遠野遥斗の深いところには、まだ小さな火が残っている。だが体は、火の熱に気づかないふりをする。

指は資料を束ね、所定の角度でホチキスを閉じる。完璧な手順の完璧な速度。そこに俺はほとんどいない。

ただ、ときどき。ほんの、ときどき。

ポケットの中で、ぜんまいが一度だけ“かちり”と鳴る。

祖父の形見の小さなメトロノーム。いつ入れたのか、もう思い出せない。オルフェウスは無駄を嫌うが、無駄に見えるもののいくつかは、まだ消されずに残っている。服の縫い目、飾りボタン、そして、この小さな重り。

俺は触れられない。体は俺のものじゃないから。けれど、重りのわずかな揺れが布越しに伝える“半拍の遅れ”だけは、俺の内側まで届く。

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