雪の秘密 – 出会い

ユリアはその男を家の中に招き入れることに決めた。男は風に飛ばされそうな身体をゆっくりと動かし、彼女の後ろをついてきた。部屋の中に入ると、彼は暖炉の前に座り、体を温め始めた。彼の顔には疲れや痛みが浮かんでいたが、それでも彼はユリアに感謝の笑顔を向けた。

「どこから来たの?」ユリアは少しの間をおいて、彼に尋ねた。

男は首を傾げ、苦しむように言葉を紡ぎ出した。「正直、わからない…。記憶が…。」

彼の言葉に、ユリアは驚きを隠せなかった。「記憶を失っているの?」と、言葉に詰まりながらも再び尋ねた。

「はい、名前も、どこから来たのかも、何をしていたのかも…。全部、思い出せない。」彼の目は深い絶望に包まれていた。

ユリアはしばらくその場で彼を観察していた。彼の服は濡れており、雪や泥で汚れていた。しかし、その中でも彼の手や顔には深い傷跡や打撲痕が確認でき、事故に遭ったと推測された。



彼女は彼に毛布と暖かい飲み物を持ってきて、彼の体を温めるように勧めた。彼はその申し出に感謝し、ゆっくりと飲み物を口に運んだ。

夜が深まる中、ユリアは彼を居間のソファで休ませることにした。最初は彼に警戒心を抱いていたユリアだったが、彼の無害そうな様子や紳士的な態度に次第に心を開いていった。

時折、彼が記憶の断片を口にすることがあった。彼の言葉の中には、家族や友人との思い出、そして突然の事故とそれに続く記憶喪失の恐怖が感じられた。ユリアは彼の話を静かに聞きながら、彼の記憶が戻ることを心から願っていた。

夜が明けるころ、彼は深い眠りについていた。ユリアは彼を起こすことなく、朝食の準備を始めた。彼の存在によって、彼女の孤独な日常には新しい風が吹き始めていた。

彼との出会いが、ユリアの日常にどのような変化をもたらすのか。その答えはまだ分からなかったが、少なくともユリアは彼を信じ、彼の記憶が戻る手助けをすることを決意していた。

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