翔太は静かな田舎町に住む青年で、いつも明るい性格を持ち、周りの人々から愛されていた。
そんな彼には一つの秘密があった。それは、幼い頃から続いている夢の力であった。翔太は毎晩、夢を見ており、その内容が現実になるという運命の持ち主だった。
日常の中で、翔太は自分の特異な力を軽く考え、おおらかな日々を送っていた。友人たちとアニメの話で盛り上がり、時には自然の中で小さな冒険を楽しむ。町の人々にとって、翔太は明るい太陽のような存在だった。彼の明るさが周囲を照らしていたが、その一方で、翔太は自分が抱える秘密を知られてはならないと、心の奥でいつも警戒していた。
ある日、いつものように笑顔で過ごしていた翔太は、突然衝撃的な夢を見た。そこで描かれていたのは、彼の親友である耕平が、事故に遭い命を落とす惨劇であった。翔太はその夢を身震いしながら見つめていた。
目が覚めると、彼は冷や汗をかいていた。「これはただの夢だ」と自分に言い聞かせ、翔太はその日の明るさを保とうと努めた。しかし、内心には不安が渦巻いていた。数日後、翔太は何気ない日常を過ごしていたが、心に澱のように沈んでいた夢の恐怖が、心を締め上げていた。
そして、現実は彼の想像を超えていた。夢に見た通り、耕平が事故に遭い、命を落としたという知らせが翔太の耳に届いたとき、彼の心は崩壊した。自分が見たことが現実となった、その恐ろしさに翔太はショックを受けた。同時に、自身の能力の重さに直面した。
翔太は、自分の夢が他人の幸せを壊す存在となることを恐れた。これまでの明るい性格が一夜にして暗く変わり、周囲との関係は次第に壊れ始めた。友人たちと過ごしている時間も、彼は心のどこかで距離を感じるようになり、笑顔を保つことが困難になった。彼の少しずつ薄れていく明るさに、親友たちも困惑していった。
悔しさと無力感に苛まれ、翔太は夢の力の呪縛から逃れたいと願うが、決して解放されることはなかった。時折、今後も夢が続くことへの不安が彼の心を煩わせた。
「もし次の夢が、また誰かを傷つけるのなら…」翔太は不安に苛まれつつも、どうすることもできなかった。自身が見た夢の内容に少しでも関わってしまうのが恐ろしかった。
翔太は、自分の能力が他人に向けて悲劇を生むことを考えると、さらなる孤独感を抱くようになった。友人たちとの会話は、次第に表面的なものとなり、必死に作り笑顔を見せる彼に、誰も気づくことはなかった。ただ、彼の心の声だけが、風の音に消えていくように、次第に薄れていった。
それから日が経ち、翔太は自らの運命と向き合わざるを得ない決断を下すことになる。彼は決して他人の命を奪うことがないよう、夢の力を終わらせる方法を必死に探すことにした。最終的には、自らの命を犠牲にすることが解決策であるという想いが彼を突き動かしていた。
最後の晩、翔太は静かな湖のほとりに立ち、どこか安らかな気持ちが広がっていた。その瞬間、全ての思い出、一緒に過ごした友達の笑顔、耕平との楽しい日々が脳裏に浮かんだ。しかし、その全てがもう戻らないことも理解していた。穏やかな風が翔太の髪を撫でるように吹き抜け、彼は一つの決意を固める。
「僕が消えれば、夢が消える。」言葉が自然に漏れた瞬間、翔太は自分の命を犠牲にする覚悟をした。その瞬間、周りの景色が眩く輝き、翔太は愛する人々のためにその選択を取った。
しかし、その選択がもたらすものは、彼が愛する人々への悲しみだけだった。自分の全てを投げ打つつもりだった翔太の不器用な善意は、ただ悲劇を生む運命に消えていくのだった。彼の瞳が閉じると同時に、周囲の風が静まり、どこか冷たい余韻だけが残る。
翔太が最後に抱いていた笑顔は、今はもう消え去り、静寂の中で悲しみだけが深く響いている。彼の物語は、風の音と共に静かに幕を閉じた。
