「おかえり、桜!」
「お姉さんの作るおかゆはおいしいよね」
声をかけられて桜は一瞬だけ笑顔を返すものの、胸の奥にはいつものざわめきが残る。──私には「本当のお母さん」がどこにいるのか、ここにいる誰にも分からないままなのだ。
木島先生が大きなお玉を手に、やさしい手つきでおかゆをよそる。
「さあ、みんな。しっかり食べて、今日も元気にがんばろうね」
しかし桜は、一口すすってから目を伏せた。心の奥に問いかける声があった。
「私の“お母さん”は、本当にどこかにいるの……?」
──その午後、ほとんど人影のない廊下の奥へと忍び込んだ。子どもたちが遊びに出かけた隙を狙い、桜は屋根裏へのはしごをそっと引き出す。上るたびに埃が舞い、肩をこすりつけられるようだった。
屋根裏の扉をそっと開くと、年月を経た木箱が何段にも積まれている。鍵など掛かってはいないが、普段は誰も足を踏み入れない場所だ。肩越しに振り返り、後ろの空気を確かめてから奥へ進む。箱の山の中ほど、ひときわ小さな箱が埃に埋もれていた。
箱を抱え上げると、中から真っ白な封筒がひとつ現れた。封蝋が薄く割れ、文字はかすれながらも「T子より」とだけ記されている。手が震え、息が止まりそうになる。──「T子」? いったい誰のイニシャルなのか。



















