列車が山間を抜けるたび、ガタン、ガタン――揺れが強まる。桜は護符の入った布袋を抱きしめ、そっと紐を確かめた。その時、不意の急ブレーキが列車を震わせた。大きな衝撃に桜はよろめき、隣席のテーブルに手をついた瞬間、布袋がするりと床へ滑り落ちる。
「待って!」
陽斗が叫びながら降りかけたが、衝撃は収まらず、床に転がった護符の欠片がコロコロと車内を転がっていく。二人は慌てて拾い集めるが、あれほどあったはずの星形の一片が見当たらない。
「欠片が……!」
桜の声には震えが混じる。陽斗も顔を曇らせて周囲を探すが、床の網目や小さな隙間から欠片が消えたらしい。残った数個を胸に抱き、桜はそのまま座席にへたり込んだ。
「桜、大丈夫か?」
陽斗は残った欠片を差し出し、そっと肩を抱く。沈み込むように伏せたまま、桜は小声で答えた。
「…これで、また一つ、手掛かりを失った」
列車はゆっくりとカーブを曲がり、窓の外に街灯が見え始める。遠ざかるホームとは違い、目の前には次の目的地の町が灯りをともしていた。陽斗はぎゅっと桜の手を握り返し、優しく言った。
「物だけが手掛かりじゃない。君の心に刻まれた想いこそが、本当の“星の涙”なんだ。だから、前を向こう」
桜は涙をこらえながらゆっくりと顔を上げ、ノートを取り出した。欠片が失われたことを一行で記し、その横に大きくこう書き連ねた。
――紗枝という画家に会い、“心の護符”を手に入れる。
目の前に広がる町の明かりを見つめ、桜は深く息を吸い込んだ。失われた欠片の痛みを胸に抱えながらも、希望の灯は消えていない。二人は揺れる列車の中で再び顔を見合わせ、小さく頷き合った。
次なる旅路への一歩を刻むように、列車は夜の街へ滑り出していった。

















