星の涙 – 第6話

桜は躊躇いながらも手紙とノートを取り出し、経緯を語った。欠片を失い、心の羅針盤を必要としていること。紗枝は静かに頷き、手招きした。

「なら、その羅針盤をここで作りましょう。絵は言葉にならない想いを映し出すから」

アトリエの中央に置かれたテーブルに座り、紗枝は桜にスケッチブックと太い鉛筆を渡した。

「まずはリラックスして。思い浮かぶイメージを、そのまま線にしてみて」

桜は戸惑いながらもページを開き、母からの手紙の一文を思い返した。――「遠くから見守っています」。その言葉が胸に灯をともすように、震える手で一筋の線を引く。次第に、線は波のように広がり、孤児院の屋根裏、深山郷の星形、失われた欠片の痛みが滲む。

横で見守っていた陽斗も、自分の写真に刻まれた家族の笑顔を思い出し、桜の隣でペンを動かした。二人の手元には、徐々に心の風景が浮かび上がっていく。

やがて紗枝が柔らかな声で告げた。

「いいわ。その絵があなたの心の護符よ」

桜は最後の一枚に、小さな星形を描き加えた。そこにはTの刻印こそないものの、自らの想いを閉じ込めた確かな形が宿っていた。

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