風が知っている – 第1話

春の訪れとともに、悠斗は記憶を失いながらも、足を踏み入れたことのない小さな村へと辿り着いた。彼の持ち物はわずかで、一冊のスケッチブックが全てだった。そのスケッチブックには、見知らぬ風景や人々の肖像が細かく描かれている。しかし、それがどのような意味を持つのか、悠斗にはわからなかった。

その日、村の入り口で紗枝が不思議な光景に遭遇する。彼女は村の中で小さな花屋を営んでおり、その日もいつものように花の配達から戻る途中だった。紗枝が見たのは、道端に座り込んでいる若い男性の姿。彼が持っていたのは、風に舞うページを必死で抑えつけようとするスケッチブックだった。

「大丈夫ですか?」紗枝が声をかけると、男性はゆっくりと顔を上げた。「ああ、すみません。ちょっと、道に迷ってしまって…」悠斗の言葉は途切れがちで、彼の目は遠くを見ているようだった。

紗枝は悠斗を村の中心へと案内した。彼女の優しさに心を開いた悠斗は、スケッチブックの存在を紗枝に打ち明ける。それは彼にとって唯一の手がかりであり、失われた記憶への鍵かもしれないと思っていた。

その頃、進輝は村の若者たちと共に畑仕事をしていた。彼は紗枝が連れてきた見知らぬ男に対して、一抹の疑念を抱く。進輝が紗枝に問う。「彼は誰だ?なぜ村に?」紗枝は、「彼は記憶を失っているみたい。私たちが助けてあげなきゃ」と答えた。

悠斗がスケッチブックを開くと、村の風景や人々の肖像が次々と現れた。村人たちは、それらの絵に驚き、自分たちの知る村がそこに描かれていることに興味を持ち始めた。進輝も次第に悠斗への警戒心を解いていく。

悠斗と紗枝、進輝の間には、徐々に信頼の絆が芽生え始める。紗枝は悠斗に、「この村には古い伝説があるの。あなたのスケッチブックに描かれた場所や人物が、それに関連しているかもしれないわ」と話す。進輝も興味を示し、「もし、それが真実なら、私たちの村にとって大きな発見だ」と言った。

夜が訪れ、三人は村の広場で集まった村人たちにスケッチブックの中身を見せた。紗枝と進輝は悠斗を支え、彼の記憶を取り戻す旅が始まることを村人たちに告げる。その夜、村は久しぶりに活気づき、悠斗のスケッチブックが新たな物語を紡ぎ始めた。

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