深海の叫び – 第1章:禁断の遺跡 前編

序章:前編後編 第1章:前編|後編

深海の闇に浮かぶ影

深海探査艇は、深い青の闇を突き抜けるように静かに前進していた。濃密な海水の中、ほんのかすかな光がぼんやりと浮かび上がる中で、探査艇はやがて、予期せぬ対象物に接近する。モニターに映し出されたのは、人の手が作り出したとしか思えない巨大な構造物―遺跡であった。遺跡は、時間の流れを忘れさせるほどに古び、石造りの壁面には無数の謎めいた彫刻が刻まれている。これまでの探査で手に入れた映像とは明らかに異なり、その彫刻は、まるでかつて偉大な文明が栄華を極めた証であるかのように威厳を放っていた。

斎藤 遼は、ブリッジの前に立ち、モニターに映るその異様な光景をじっと見つめながら、重々しい声で語りかけた。「これは、単なる自然現象ではない。明らかに、人がかつて手を加えた遺跡だ。だが、この構造や彫刻は、どこか我々の常識を逸脱している。」彼の声には、科学者としての確固たる探究心と、未知への畏怖が混じり合っていた。

隣に控えていた中村 美和は、真剣な眼差しで斎藤の言葉を受け止めながらも、淡々と装備のチェックを進めていた。「斎藤さん、これほどの遺跡がこの深海に存在するなんて…もし万が一、ここで何かが起これば、私たちの命にも関わる可能性があります。慎重に行動する必要がありますわね。」その穏やかでありながら、どこか厳しい口調は、これまで数々の危機を乗り越えてきた経験から来るものだった。

一方、ドクター・ローレンスは、奇妙な笑みを浮かべながら、しばしば古代神話に触れるかのような声で話し始めた。「この遺跡に刻まれた文様は、単なる装飾ではなく、古代において何らかの儀式が行われた証拠だ。まるで、あの失われた神々への捧げ物の痕跡のようだ。古代の文明は、もしかすると我々が今まで知らなかった神聖な存在を崇拝していたのかもしれませんね。」

斎藤は、ローレンスの発言に耳を傾けつつも、眉をひそめた。「ローレンス博士、あなたの言う『神々』という言葉は、科学的な根拠に欠けると思います。いや、全く否定はしませんが、まずは実際の遺跡の構造とその特性を、客観的に解析する必要があります。」彼の声は、冷静かつ論理的な思考を失わない強い意志を感じさせた。

「もちろん、斎藤さん。ですが、時には理性だけでは解明できない現象も存在します。それが、この遺跡の持つ圧倒的な威厳と神秘さなのです。」と、ローレンスは飄々としながらも、どこか深い情熱を見せて応じた。

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