竜の笛と消えた王都 – 第1章

太古の時代より、王都ラゼルはその威光を放ち、四方の国々から尊敬を集める存在であった。しかし、ある夜のこと、突如として天に昇り、地上から姿を消した。これにより王国は大混乱に陥る。農村では作物が育たず、市場は閑散とし、人々は恐怖に怯えた。王都の消失はただの現象ではなく、神話から抜け出したかのような大事件であった。

この国の片隅で、エリオットという若者が暮らしていた。彼は、緑溢れる一画で、古びた小屋を構える孤独な農夫のもとで、幼い頃より育てられてきた。エリオットには、実の両親の記憶はない。しかし、彼が唯一心に留めていたのは、母が語ってくれた竜の笛にまつわる伝説の話だった。笛は、竜と人との絆を象徴し、世界の均衡を保つ力を秘めているという。彼女の言葉は、エリオットの心の中で生き続け、彼の想像力を刺激し、夢を育んでいた。

エリオットは毎日、畑仕事をしながらも、空を見上げては、竜の笛の音色を想像していた。笛の音はどのようなものだろうか。それは、風に乗って遥か遠くまで届くのだろうか。それとも、心の中だけに響く幻の旋律なのだろうか。子供の頃からの疑問は大人になった今も彼の中で生き続けている。王都が空に消えた夜、その疑問はさらに深く彼の心に突き刺さった。

時折、エリオットは村の古老たちに笛の話を聞いた。彼らは、笛がただの伝説ではなく、かつてこの大地に存在したと断言した。それは竜たちが人間界に与えた、最も貴重な贈り物だと彼らは言う。しかし、その存在を確信している者は少なく、笛の話を信じる者は更に少なかった。エリオットにとって、その笛を見つけ出し、王都ラゼルの謎を解き明かすことは、ただの夢物語ではなく、使命であった。