亡霊の街 – 第7話

 小野寺もまた説得に加わる。彼は佐伯の良き理解者であり、同じジャーナリストとしての使命感を共有していたはずだった。しかし、佐伯の身体に深刻な異変が起きているのを見て、もはや危険な領域に踏み込みすぎていると判断したようだ。

 だが、佐伯はその言葉を聞いても頷かなかった。むしろ、小野寺や宮島が自分を危険から遠ざけようとすればするほど、焦りと苛立ちが込み上げてくる。彼らには分からない感覚があるのだ。亡霊たちは怨嗟や呪いだけをぶつけてくる存在ではない。むしろ「あの日のまま、助けを待ち続けている」気配のほうが強いように感じられる。切り捨てられた魂が街に縛りつけられているなら、今こそジャーナリストとして事実を暴き、救いの道を探すべきではないのか――それが佐伯の信じる正義だった。

「お前は勘違いしてるんだよ、佐伯! 亡霊だろうがなんだろうが、そんなものに関わったらいつかお前が取り込まれる。すでに身体がおかしくなってるじゃないか!」

 宮島の声が荒ぶる。説得を通り越して怒声に近くなっていた。だが佐伯は引かない。

「……取り込まれるのは分かってる。けど、このまま放置したら、また別の人間が消される。こんな悲劇を繰り返させるわけにはいかないんだよ」

「じゃあお前は何のために生き延びようとしてる? 死んだら終わりなんだぞ! それでもいいのか?」

「俺が死んで終わりなら、それで魂たちが救われるなら……それでもいいと思ってる」

 その言葉を聞いた小野寺は目を丸くし、宮島は怒りをあらわにして拳を握りしめる。思い切りテーブルを叩いた宮島は、もう何を言っても聞く耳を持たない佐伯を睨みつけ、苛立ちをぶつけるかのように踵を返して出ていった。小野寺も「そこまで言うなら、もう知らない……」と肩を落とし、玄関先へと向かった。二人の足音が遠ざかっていくと、部屋には冷たい静寂だけが残った。

タイトルとURLをコピーしました