亡霊の街 – 第7話

 長い時間が過ぎたような錯覚を覚えながら、佐伯は深いため息をつく。胸の奥では悔しさと哀しみが混ざったような感情が渦巻いていたが、それでもやるべきことは変わらない。書物や文献をもとにした推測によれば、かつて街で行われた“封印の儀式”は不完全だった。その結果、亡霊たちがあの場所に留まり続け、さらに災厄が継続する形となっている。ならば、もう一度封印を解き、正しい方法で浄化を行う必要があるのではないか――どこかでそう確信し始めている自分がいた。

 孤立した佐伯が考えたのは、やはりもう一度あの街へ潜入することだった。仲間たちはもちろん反対するだろうし、誰も協力してくれないかもしれない。けれど、自分が踏み込まなければ何も変わらない。亡霊の声がいっそう鮮明に聞こえる今こそ、儀式の鍵になる何かを見つけられるかもしれないという期待があった。あるいは、自分自身が完全に取り込まれてしまう可能性も高いだろう。それでも立ち止まれないという思いが、憑かれたように心を支配している。

 腹をくくった佐伯は最低限の荷物をまとめ、闇夜にまぎれて部屋を出る。行き先は、外から厳重に封鎖されているはずの“亡霊の街”。宮島や小野寺の警告が脳裏をよぎるが、扉を閉める手は一切ためらわなかった。自分が見つけ出した封印の鍵を手に、もう一度あの地で儀式の真実を暴き、亡霊たちを救う道を切り開く——その狂気に近い決意が、佐伯の身体を奮い立たせていた。周囲の静寂が一層深く感じられたのは、きっと彼の中で何かが決裂してしまったからかもしれない。

 夜の街角に人の気配はほとんどなく、月の光が照らす薄暗い路地を一人歩くうちに、佐伯の意識には再び低く掠れた声が滲み出していた。「早く……来て……」切実とも誘惑とも取れるその囁きは、一瞬にして佐伯の心臓を鷲掴みにする。理性の底で警鐘が鳴り響いているが、もう振り切るしかない。あの街で何が起ころうとも、引き返す道は自分自身が捨て去ってしまったのだから。

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