深海の叫び – 第3章:深海の呪縛 後編

ローレンスは、少し口角を上げながらも、真剣な面持ちで応じた。「もちろん、斎藤さん。だが、このエネルギーは、我々の内側に秘めた恐怖や過去の傷を呼び覚まし、狂気へと引きずり込む力を持っています。古代の儀式で使われた呪文のようなもの、封印のリズムのようなものが、今、我々の前に具体化しているのですから」

中村は、モニターに映る映像と各種センサーから送られてくるデータを見つめながら、やわらかな口調で述べた。「全員、体調と精神状態を再確認してください。最近、数名の隊員から、心拍数の急激な上昇や、幻覚に類する報告が寄せられています。私たちは、ここで起こる現象が、ただの自然現象ではなく、確かに私たちの心に影響を及ぼしていることを実感しています」その言葉は、隊員たちの間に不安と同時に、共に支え合う連帯感を呼び起こすものだった。

艦載ドローンは、さらに深い位置に向かって進むと、突然、広大な空間が現れた。そこは、かつて古代の宗教儀式が行われた場所とされる広間であった。天井までそびえ立つ石柱と、その間に刻まれた無数の象形文字は、まるで異世界の神殿のような神秘的な佇まいを見せ、探査隊の心に激しい動揺を引き起こした。

「この広間……これは、単なる偶然の生成物とは思えません。何か重大な儀式がここで行われたのは明らかです」斎藤は、ドローンの映像を前に静かに語った。彼の声には、科学者としての疑念と、深淵に抗うための覚悟が感じられた。

ローレンスは、画面に映る巨大な祭壇を指しながら、興奮を抑えきれずに話し出した。「祭壇に刻まれたこの模様は、非常に特異です。古代の文献にある『深淵の儀式』を彷彿とさせるもので、そこに記された言葉は、かつて神々に捧げられた祈りや呪いを示している可能性があります。私の仮説では、ここで行われた儀式は、深海に封じ込めた力を呼び覚ますためのものだったかもしれません」彼の言葉に、隊員たちは無言で映像に釘付けとなった。

中村は、口調を少し落ち着かせながらも、「もし本当にそのような儀式がここで行われたのなら、我々はその影響を受けていることを無視できません。精神状態の不安定さは、単なる一時的なものではなく、この場所のエネルギーが、我々の心に深い影響を及ぼしている証拠です。隊員全員、引き続き慎重に、そして互いに注意を払いながら行動してください」と、厳命した。

タイトルとURLをコピーしました