前編 後編
その街のどこかで風鈴が鳴っていた。夏の暑さが身体にまとわりつく中、彼の物語は静かに動き出す。主人公、優樹は毎日のように見る夢に悩まされていた。不思議な夢だ。彼自身がいない、だが彼の人生のように思える夢。夢の中の彼は、時に笑い、時に泣き、そして時には愛する人と共に過ごす。
そんな日々が続く中、ある日の夜、優樹は家族との夕食中に口を開いた。「この間、夢を見たんだけどさ……僕、何か変なこと言ってないか?」と。母親の顔色が変わった。「どんな夢だったの?」彼女は力を込めて尋ねる。
優樹は夢の詳細を家族に話す。その時、部屋の空気が一変した。母親の表情は深い悲しみに包まれ、父親も無言で頷く。それから母親はゆっくりと口を開いた。「優樹、君には兄弟がいたんだよ。でも、残念ながら君が生まれる前に亡くなってしまった。君の夢、それは多分彼の人生を見ているのかもしれない……」
この事実に驚愕した優樹は、知らなかった自分自身の過去、そして兄弟の存在について問いただす。しかし、その質問に母親は答えられなかった。亡くなった兄弟の話をすることが、彼女にとってあまりにも辛すぎたからだ。
その日から優樹の生活は一変した。自分が誕生する前に亡くなった双子の兄弟、その存在を知ったことで彼の中に新たな問いが生まれる。「なぜ、僕は兄弟の人生を見る夢を見るのだろう?」「彼はどんな人生を送ったのだろう?」
それから数週間後、優樹は決断した。自分が生まれる前に亡くなった兄弟の人生を追い求める旅に出ることを。運命のつながりを探し求めるために。この旅を通じて、優樹は家族の愛、喪失の痛み、そして自己の探求について深く理解することになるだろう。
しかし、その前に彼が直面するのは、亡くなった兄弟の存在を探る苦悩と葛藤の道のりだ。そして、彼はまた夢を見る。夢の中の兄弟が幼少期に通ったと思しき小学校の門前で、目を閉じて風鈴の音を聞いている。その音は悲しげで、それでもどこか温かさを感じさせる。この音が、優樹の旅の第一歩となる。