静かなる救済 – 第3楽章

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黄昏のアップライト

日が落ちて、街の灯りがぼんやりと灯り始める頃、ミナはユウキを自宅に招待した。彼女の家は、古き良き時代の香りを残す、木造の家であった。ミナは緊張しながら、ユウキの手を引いて家の中へと案内した。

「こちら…」ミナが案内する部屋の中央には、古びたアップライトピアノが鎮座していた。キーの白と黒が年月の経過と共に色褪せているのがわかった。しかし、その姿はどこか優雅で、静かな存在感を放っていた。

「これは、私の祖母から受け継いだものなんです。でも、私はちゃんと弾けなくて…」ミナの声には、少しの寂しさと希望が混ざり合っていた。

ユウキはピアノの前に立ち、しばらくその姿を眺めていた。自分が事故を起こしてから、こうしてピアノの前に立つのは初めてだった。彼の胸には複雑な感情が渦巻いていた。

ミナはユウキの隣に立ち、小さな声で語り始めた。「音楽の美しさや楽しさをもっと知りたいんです。ユウキさんの音楽には、私が感じたことのない温かさや力があります。だから…」



ユウキは彼女の言葉を聞きながら、ゆっくりとピアノの椅子に座った。彼の左手はもうないが、右手だけでキーを軽く叩き始めた。始めは簡単なメロディから始まり、少しずつ複雑な曲へと移り変わっていった。

部屋の中は、ユウキの演奏に包まれて、時間が止まったような静けさが広がっていた。ミナの目には感動の涙が浮かんでいた。

演奏が終わると、ユウキは深く息を吸い込んだ。「ミナ、ありがとう。君の純粋な気持ちに触れて、再びこの場所に戻ることができた。」

ミナはユウキの言葉に微笑みを浮かべながら、彼の隣に座り、一緒にキーを弾き始めた。二人の間に流れる音楽は、互いの絆や思いを深めていった。

そして、その日を境に、ユウキとミナは、音楽を通じて、新たな夢や希望を追い求めることを決意した。

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