和菓子の灯がともるとき – 12月27日 前編

12月26日 前編後編

朝のまだ薄暗い時間帯、由香は母と連れ立って病院へ向かうため自宅を出た。冬の冷たい空気が肌に触れるたび、早朝に出かけるという行為がこれほど久しぶりだったのかと自分で驚く。母の車に乗り込むと、フロントガラスの外は白く曇った息で曇りがちになり、すぐにエンジンの温風がそれを消していく。家の中で見る母の顔とは打って変わり、運転席に座る母は少し緊張した面持ちに見えた。入退院を繰り返す父を見舞う日常が続くせいか、母の視線は常に前を向きながらも、どこか遠くを見つめているようだった。

病院へ着くと、無機質な長い廊下を歩きながら、由香は昨日の夜のことを思い出す。父の店を一度覗いてから戻ったあとの母との会話は、どうにもぎこちなく、店を閉めた状態が長く続いていることへの不安や、父の体調を案じる気持ちが入り混じった空気が漂っていた。もともと母は明るくてよく喋る人だったはずが、最近はすっかり言葉数が減ったように感じる。由香は「何かできることはないか」と思いながらも、まだいまいち踏み込めずにいる自分に苛立ちを覚える。

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