第1話: 「冬の足音」
冬の東京、夜空から静かに舞い降りる雪が街を白く染めていた。カイトはコートの襟を立て、寒さに震えながら足を進める。繁華街の賑やかな音楽が遠くから聞こえてくるが、彼の心には何も響かない。ここ最近、何度もギターを手にして曲を書こうとしたが、指が動かず、メロディも浮かばない。「俺の音楽って、一体何なんだろうな…」と、カイトは心の中で呟いた。
通り過ぎる人々は楽しそうに笑い合い、クリスマスのイルミネーションが輝いている。そんな風景をぼんやりと見つめるカイトの脳裏には、かつての自分の姿が浮かんでいた。初めてCDをリリースしたときの興奮、ライブハウスで観客と一体となった瞬間。しかし、今ではその全てが遠い過去の出来事のように感じられる。成功への期待が薄れ、毎日のルーチンに埋もれていく自分に、カイトは苛立ちを感じていた。
そんな折、自宅に戻ったカイトを待ち受けていたのは、マネージャーの川上洋平だった。洋平は温かいコーヒーを手に、ソファに座っていた。「帰ってきたか、カイト。寒かったろう?」と、少し口の悪いがどこか優しさを含んだ言葉で出迎える。カイトは無言でコートを脱ぎ、椅子に腰を下ろした。