和菓子の灯がともるとき – 01月02日 前編

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朝の光が差し込む食卓には、おせち料理の名残がまだいくつか並んでいた。正月の賑わいから一夜明け、少し気の抜けたような空気の中、由香はゆっくりと箸を動かす。父・洋一は退院こそしているものの、まだ本調子ではないためか、あまり量は食べられない様子だ。母・祥子はそんな父を気遣いながら、「無理しないでね」と声をかけるが、父は「分かってるよ。ほら、由香だって食べてないじゃないか」と笑ってみせる。ほんの短い会話のやりとりではあるものの、ここに家族三人が揃っているだけで、以前の暮らしが少しずつ戻ってきているように思える。

朝食を終えた頃、母が「あ、お皿は私が洗うからいいのよ」と言ってキッチンへ下がると、居間には父と由香だけが残った。沈黙が落ちて、しばらくお互いの顔を見ていたところで、父がぽつりと話し出す。

「なあ、由香……店のことなんだけどさ。お前に継いでほしいなんて、俺は言わないぞ。お前にはお前の人生がある。東京での仕事だって順調なんだろ?」

意外なほど素直な言葉だった。ずっと店を守ってきた父が、どこかで「いつかは娘に……」と思っているのではと勝手に思い込んでいた由香にとって、それは少し肩透かしのようでもあった。

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