和菓子の灯がともるとき – 12月30日 後編

由香は「でも、亮の気持ちはほんとにありがたいと思う。私も父の店がまた動き出せるようにしたいし、何かできることを探してみるよ」と続ける。すると亮はふっと顔を上げ、「実は、大晦日に小さなカフェスペースを貸し切って、ミニイベントをやろうって話になってるんだ。商店街全体でカウントダウンするのは難しくても、こじんまりとやれれば若い人も集まるかもしれないし、地元のお年寄りも息抜きになるかなって」と打ち明けた。

「イベントって、どんなことするの?」と由香が訊ねると、亮は「まだ詳細は決まってないんだけど、音楽好きの若者が演奏したり、町で取れた野菜を使ったスープを振る舞ったり、あとは簡単なお茶とかコーヒーを飲めるようにして、集まった人同士が話せる場にできたらいいなって」と説明する。そして、少し言いにくそうに「もし、夏目堂のお菓子があったらすごく盛り上がると思うんだよね。正月っぽい和菓子とかがあれば、みんな喜ぶだろうし」と付け加えた。

由香は瞬時に、父の容態や母の負担を考えて「私ひとりじゃ無理かも。まともにお菓子なんて作ったことないし…」と返すが、同時に「でも母さんの手が借りられたら、小さな数だけでも和菓子を作れなくはないかも」と光が差すような思いがした。そもそも、昔からの製法をちょっとかじった程度の由香一人では到底無理だが、母の祥子は和菓子づくりを手伝ってきた経験がある。まだ父は寝たきりの時間も多いが、アドバイスくらいはできるかもしれない。

「お母さんに相談してみるよ。もし少しでも作れそうだったら、手伝わせてもらう。大晦日まで時間ないけど、そこそこの量なら間に合うかも知れないし」と言うと、亮は目を輝かせて「助かるよ! ほんとに少しでいいんだ。お餅をベースにした簡単な菓子とかでも、みんなきっと喜んでくれる。もちろん無理はしなくていいからね」と繰り返す。

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