和菓子の灯がともるとき – 12月30日 後編

風が吹いて、由香の頬をかすめる。けれど、先ほどまでの冷たさはあまり感じなくなっていた。昨夜の衝突が嘘のように、二人の間にはゆるやかな温もりがある。

「じゃあ、ちゃんとお母さんとお父さんに話してみる。お父さんにも早く元気になってもらいたいし、何かイベントに参加できれば、やる気も出てくるかもしれないしね」と由香が言うと、亮は満足げにうなずき、「ありがとな」と小さく呟く。これまで抱えていた悔しさや苛立ちが少しずつ溶けていくようだった。

そこへ、母が病院の入り口から姿を見せる。「ごめんね、遅くなった。先生との話が長引いちゃって…」と申し訳なさそうに手を振る。由香は「大丈夫。ちょうど亮に会ったんだ」と言い、二人で笑い合った。まだ具体的にどう進めていくかは分からない。だが少なくとも、和菓子を通じて地元を少しでも盛り上げられる可能性を見つけられたことで、由香は心の中に小さな希望がともるのを感じた。

父が家で年越しできるかもしれないという奇跡。亮とのわだかまりが解け、何か新しい試みに挑戦できそうだという期待。そして、母と父がそろって店に帰ってきたら、きっとまた店の道具たちも生き生きとした表情を取り戻すはずだ。これから年末に向けて、いったいどんな日々が待っているのか――由香の胸には、不安を抱えつつも、ほんの少し明るい未来への予感が芽生えていた。

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