「ところで、真知子さん。10年前の火災事故の後、早坂さんがトラウマを抱えていたと聞きました。そのことについてもう少し詳しく教えてもらえますか?」
陸の質問に、真知子はため息をつき、少し遠くを見るような目つきになった。
「彼女はあの事故の後、しばらくピアノから離れていました。事故で失ったものは彼女にとって計り知れないものだったのだと思います。」
「失ったもの……?」
「ええ。怜子さんは当時、仲の良かった友人を失いました。それだけでなく、事故の原因についても責任を感じていました。実際のところ、彼女が直接関与した証拠は何もないんです。でも、彼女自身はそう思い込んでしまった。」
「それがトラウマとなって、今も影響を及ぼしていると?」
「そうです。ピアノを弾くたびに、彼女はその友人のことを思い出していたようです。」
真知子の話を聞くうちに、陸は怜子の中で消えない記憶が、彼女の心を縛り続けていることを感じ取った。そして、その記憶が今回の失踪事件に関わっている可能性があると確信し始めた。
帰り際、陸はオフィスを出ようとしたところで、真知子がふと声をかけた。


















