異世界冒険者ギルドの日常 – 第2章:前編

 数字で示されると三人の表情が一気に引き締まる。受付業務で鍛えたデータ説得力は、ダンジョンでも健在らしい。

 ギルドの馬車で遺跡入口へ移動する間、私は支部長クラリスから託された“もう一つの任務”を思い出していた。

――遺跡管理局が保有する魔紋炉のエネルギー収支表に、王都本部の承認印のない支出が混ざっている。現場で異常がないか確認してほしい。

 数字だけでは掴めない裏事情。受付係の私が最前線で探るとは……転生前の社畜人生でも、こんな変化球タスクは来なかった。

 遺跡入口は苔むした階段が地中深く続く、天然の冷気が頬を撫でる。足元を照らす結晶ランタンの灯が頼りだ。

「ティリア、先頭で索敵。ガルドは二番手でシールド代わり。リリィは私の隣で罠判定を補助してくれ」

「了解」

 実戦指揮は私の役目。三人とも素直に頷くあたり、昨日のテストで得た信頼は本物らしい。

 F層へ降りると、天井に埋め込まれた青い魔石がぼんやり光っている。床には歯車模様の古代機構――これが例の魔紋炉の配管らしい。

「魔力流量……通常比一・二八倍。やはり高めね」リリィが携帯測定器を翳して呟く。

「放っておくと暴走しかねない数字だ」私も頷く。

 進んでいくと、アーチ型の通路でティリアが手を挙げた。

「矢尻の先に糸。跳躍罠よ」

 微細な透明糸が通路を横断している。ガルドが前に出て、剣の平でそっと押すと、天井から石柱が落ち――結界に触れて止まった。

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