異世界冒険者ギルドの日常 – 第2章:前編

「閉所罠! 重量板を踏んだ覚えは?」

 ガルドが首を振る。リリィは制御盤を操作してみるが、反応なし。

 私は《エクスセル》で閉鎖速度と残り空間を計算しつつ叫んだ。

「あと十秒で完全封鎖! ティリア、扉上部の蝶番へ弾丸矢を! ガルド、同時に下部へ斬撃で隙間を確保!」

「了解!」

 矢が金属を穿ち、火花が散ると同時に剣が石畳へめり込む。

 その隙間へリリィが鍛冶箱から瞬間展開式ジャッキを滑り込ませ、ガチャンと固定。石壁は止まった。

 息をつく間もなく、制御盤の赤い脈動が紫へ変わる。嫌な色だ。

「暴走カウントが始まった!」

 パネルに浮かぶ数字は三百からカウントダウンを始めている。五分後、ここは溶鉱炉になる。

 ――ここで今回はタイムアップか。私たちはまだデータを握っただけだ。出口もふさがれた。

 私は拳を握り、仲間を振り返る。

「落ち着け。数字が示すのは絶望じゃない。対策を立てるためのヒントだ。必ず脱出方法はある」

 ティリアが矢筒を叩き、ガルドが大剣を構え、リリィが工具箱を抱えた。

 紫光がホールを染める中、私たちは一歩踏み出す。

 制御盤の裏に隠された非常遮断栓、それがこの局面を切り開く唯一の鍵だと、私は計算結果から読み取っていた――。

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