ティリアが矢を放つも、矢羽根が霧で乱れ弾道が逸れる。私は甲板へ飛び出し、霧深度を推定。水分量と風向きをセルに入力――『霧散せし数字の風』と心で唱えると微弱風魔法が発動、霧が薄片のように裂けて視界が開いた。
「そこだ!」
ティリアの矢が一人の足首を射貫く。黒装束がよろめいた隙にガルドが踏み込み、剣の柄で気絶させた。残る二人は水面へ飛び込み、瞬時に姿を消す。
安堵する間もなく、船倉からリリィの悲鳴が上がる。
「帳簿が……ガワだけ残ってる!」
慌てて駆け下りると、封筒は切り開かれ、中身は影も形も無い。代わりに一枚の紙片。
《情報は預かった。返して欲しくば夜明けまでに“燻る石塔”へ――GD》
クラリスが唇を噛む。
「罠ね。塔は廃村跡の監視灯――周囲には王都衛兵も巡回しない」
私は紙を握り締める。闇予算の証拠を奪われれば、すべてが振り出し。だが迂闊に踏み込めば敵の思う壺だ。
甲板に戻ると、老船頭がそっと囁く。
「石塔へ行くなら近道がある。廃水路だが、人だけなら舟で入れるぜ」
「時間短縮になる?」
「倍速だ。だが狭い。入れるのは三人が限界」
チームが視線を交わす。
「行くのは私、ティリア、ガルド。リリィは船守りと遠隔支援だ」
「了解。ジャマー弾を仕込んでおく!」


















