小舟が暗い水路へ滑り込むと、頭上は崩れかけのアーチ。湿気が鉄の味を運ぶ。ティリアが先端のランタンを掲げると、壁に刻まれた古いギルド標章が浮かぶ。
「この通路、昔の物流ルートね」
ガルドは頷きつつ、獣人の鼻で空気を嗅ぎ分ける。
「前方に血と硫黄の匂い……罠と魔術師の混合だ」
やがて水路が開け、足場の悪い石段が塔地下へ続いていた。時計は夜明けまで一刻。
「突入プランB。敵は帳簿で交渉を装い、実は焼却狙いだろう。阻止優先、次いで奪還だ」
頷き合い、階段を駆け上がる。
塔内部は煤で黒く、中央に古い祭壇。その上に帳簿が置かれ、紫焔がゆらりと舐めていた。
祭壇前にはローブを纏う長身の男。仮面の額に“第四課”の紋章。
「会えて光栄だ、数字の男。君の才覚は我々に欲しい」
低い声が反響する。背後の壁には魔術陣――既に焼却呪の起動寸前。
「勧誘は結構だが、帳簿は渡せない」
私は懐から小型端末を掲げる。
「本物はここに複製済み。燃やしても無駄だ」
男が嘲笑し、指を弾く。紫焔が高く立ち上がった。
同時にティリアの矢が魔術陣中心へ突き刺さり、リリィが仕込んだジャマー弾が矢尻で炸裂。魔力位相が攪拌し、紫焔が青白くかき消える。


















