異世界冒険者ギルドの日常 – 第3章:後編

 小舟が暗い水路へ滑り込むと、頭上は崩れかけのアーチ。湿気が鉄の味を運ぶ。ティリアが先端のランタンを掲げると、壁に刻まれた古いギルド標章が浮かぶ。

「この通路、昔の物流ルートね」

 ガルドは頷きつつ、獣人の鼻で空気を嗅ぎ分ける。

「前方に血と硫黄の匂い……罠と魔術師の混合だ」

 やがて水路が開け、足場の悪い石段が塔地下へ続いていた。時計は夜明けまで一刻。

「突入プランB。敵は帳簿で交渉を装い、実は焼却狙いだろう。阻止優先、次いで奪還だ」

 頷き合い、階段を駆け上がる。

 塔内部は煤で黒く、中央に古い祭壇。その上に帳簿が置かれ、紫焔がゆらりと舐めていた。

 祭壇前にはローブを纏う長身の男。仮面の額に“第四課”の紋章。

「会えて光栄だ、数字の男。君の才覚は我々に欲しい」

 低い声が反響する。背後の壁には魔術陣――既に焼却呪の起動寸前。

「勧誘は結構だが、帳簿は渡せない」

 私は懐から小型端末を掲げる。

「本物はここに複製済み。燃やしても無駄だ」

 男が嘲笑し、指を弾く。紫焔が高く立ち上がった。

 同時にティリアの矢が魔術陣中心へ突き刺さり、リリィが仕込んだジャマー弾が矢尻で炸裂。魔力位相が攪拌し、紫焔が青白くかき消える。

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