異世界冒険者ギルドの日常 – 第6章:前編

 “00”が前へ出る。仮面の奥の声は低く震えた。「帳簿一冊で我が財務を減価させるか……だが王国の蓄えは一冊では尽きぬ!」

 両手を広げ、背後の天秤へ掌を向ける。皿の片方が天井へ向けて一気に上昇し、蓄魔核がむき出しになった。

 「資本準備金、全開放!」

 巨大な柱光が落ち、帳簿と私を包もうと迫る。肌が焼けるほどの魔力が、回廊の壁に深紅の亀裂を走らせた。

 その瞬間、視界へ銀閃が横切った。ティリアの矢が飛翔し、柱光の中心に吸い込まれるや真白な爆花を咲かせて魔力流を二分した。

 「今よ!」

 割れた光流の狭間から、ガルドが全身を回転させながら跳躍し、リリィの改造シールドで庇いつつ重斬を振り下ろす。

 刃が蓄魔核の側面を穿ち、魔力導管が露わになった。そこへ私は帳簿の頁をもう一度捲り、最終行へ大きく書き込む。

 《支出超過による債務不履行――即時、所有権移転》

 バン! 魔力核が鈍い爆ぜる音とともに光を喪失し、天秤の皿が水平へ戻る。“00”のローブが風圧で翻り、仮面の口元から短く息が漏れた。

 「なぜだ……私の予算は尽きぬはず……」

 「尽きない財布などない。窓口の夜は必ず締まる。今日がその日だ」

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