(起算点は扉の真下……あそこに「勘定締出し」を打ち込めば!)
私は帳簿を胸に抱え直し、仲間へ素早くサインを送った。
「突破路作るよ! ティリア、右三十度の鎖柱を割って!」
「了解!」
彼女が放った矢は小判から切り出した即席ジャマーを鋭く貫き、鎖柱の核数式を分数形へ引き裂いた。比率を失った鎖柱は力を失い、霧の流れが瞬間的に乱れる。
「リリィ、輪転ギア十割出力! ガルド、俺を投げろ!」
「待ってました!」
リリィがカタパルトのレールを蹴り伸ばし、ガルドが私の襟首ごと腰帯を掴み上げる。轟と風が逆巻いた次の瞬間──視界が銀灰に反転し、私は鎖柱と霧の裂け目へ弾丸のように射出された。
“00”は初めて仮面の目を見開いた。「無茶を!」
だが彼の掌が上がるより速く、私は起算点上の床へ帳簿を叩き付ける。頁が開き、セルが光り、鮮紅の印字が浮かんだ。
《年度末締切》──数字の海に必ず訪れる、容赦のない終わり。
そこへ“00”の鎖が走り込むが、帳簿に刻んだ確定印が鎖の根源式へ楔を打ち込む。矛盾した決算日は二つ存在し得ず、ループは自己否定を始めた。∞は“決算日”という有限軸に閉じ込められ、騒音のような演算エラーを撒き散らす。
「係数固定、減価償却開始!」
私はセルへ三つの関数を叩き込む。
(累積減価償却額)=(資産残高)*EXP(-t/k)
(現金残高)=MAX(0,総資金-減価償却額)
IF(残高=0,TRUE,FALSE)
時変数 t に今この瞬間の残り分を代入すると、霧の中で光る小判が黒く錆び始める。列柱の鎖が次々断たれ、数字が過去の勘定に引き戻されるかのように滲んで消えた。



















