異世界冒険者ギルドの日常 – 第8章:前編

 街門を抜け、石畳が草道へ変わると春の匂いが濃くなる。

 ティリアは御者台で弓の弦を調律しつつ、風に乗る囀りへ耳を澄ませる。

 「王都へ行くたび敵襲ってパターン、今日こそは無いと良いけど」

 ガルドが大剣を背に笑う。「刺客にはドレスコードがないからな。気を抜くなって教訓だ」

 リリィは荷台で礼装の最終検品。ミスリル糸が朝日を受け、淡い桜色が徐々に黄金に変わっていく。

 「光の当たり方で色が変わるなんて最高の自慢ポイント!」

 昼頃、川辺の小村で休憩を取ると、道行く行商人が噂話を教えてくれた。

 「ご存じかい? 王都で“数字の奇術師”を名乗る詐欺師が流行っててね。帳簿を瞬時に倍額へ書き換え、金を引き出すらしい」

 「倍額……うちの宰相と同じ手口」と私は頭を抱えた。

 マリエルへ確認の魔導便を飛ばすと、即座に返答が来る。

 《本官も追跡中。危険ならば表彰式を一部非公開に変更予定》

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