夜。王都の灯が遠くに瞬き始めたころ、街道宿の二階窓から祭り囃子が微かに届く。
客室で桜色チェインメイルを試着したティリアが、鏡を覗きこんで顔を赤らめる。
「似合う? 戦闘用じゃない服……慣れないのよ」
「矢筒より似合ってる」私が冗談めかすと、本気で照れたように耳が紅くなった。
ガルドは燕尾服型チェインメイルを羽織り、「剣も革靴も光るぜ!」と大はしゃぎ。リリィはギアカフスを引き締め、「ネジが外れないか緊張する」と呟きながらも笑顔だった。
私は窓枠にもたれ、夜空で輝く北極星を見つめる。
――数字で人を守り、笑顔に換える。
それが冒険者ギルドの日常であり、私たちの日替わり定食のレシピ。
表彰式は通過点に過ぎない。明日が終われば、また窓口で新しい数字に向き合うだけだ。
「ねぇ、スピーチのタイトル決まった?」ティリアが背後から声をかけた。
「『笑顔を生む決算書』ってどうかな」
返事の代わりにほんの短い弦の振動音。
振り向くと、ティリアが矢筒も弓も置き、チェインメイルの袖を整えながら小さくうなずいた。
「それ、すごくいい」
窓の外で王都の花火がひとつ、静かに咲いた。
私は深呼吸し、胸の襟に挿した小さなメモ帳を押さえる――そこに書かれた数字と勇気の物語は、まだページを増やし続けている。
第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編 第6章: 前編|後編 第7章: 前編|後編 第8章: 前編|後編



















