異世界冒険者ギルドの日常 – 第8章:前編

 夕刻、王都近郊の宿場町。

 街道を監視する王国衛兵が私たちの旅券を確認した瞬間、背後の木陰で砂埃が立った。

 ──黒頭巾の男が二人、帳簿らしき分厚い束を抱え逃走している。

 「数字の詐欺師、現行犯!」

 ティリアが馬車から飛び降り矢をつがえるが、男たちは魔法紙を弾幕のように撒き散らす。紙片の数字が蛇のように絡み合い、視界が歪む。

 「リリィ、あの紙は換金符! 捕まえる前に額面をゼロへ!」

 私は《エクスセル》で飛散枚数と額面合計を即時算出、係数×0 のマクロを実行――紙片の数字が一斉に灰へ変わり、魔力が抜けた。

 「足止め完了、突っ込めガルド!」

 獣人が咆哮と共に跳び、男を押さえ込む。

 刹那、もう一人が小瓶を割り“魔力消火”の青煙を撒き散らした。

 視界を奪われる中、ティリアの指笛が鳴る。風読み矢が煙孔を突き破り、男の足下を撃ち抜くと地面の石を弾き飛ばして転倒させた。

 二人は衛兵に引き渡され、偽造帳簿は押収。

 「数字の奇術師はこれで終わり?」

 「枝だね。根はまだある」私は嘆息し、マリエルへ状況報告を送った。

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