仮庁舎は湖にせり出す水上桟橋に建ち、木骨の梁から魔力計算石が無数に吊られていた。石は心音のような低い鼓動を繰り返し、海藻めいた数字の光をまき散らす。
「受付係? ……あなたが“有限化の男”か」
迎えたのは端正な青年監査官──名札には《一次勘定補佐 ロジェ》とある。白手袋で差し出された帳票には、祭り決算用の暫定試算表がびっしり並んでいた。
「この合計欄、“”って何?」
私が指差すと、ロジェが肩をすくめる。
「世界樹貨の準備残高です。根から汲み上げた魔力を貨幣に変換した瞬間、数字が桁あふれを起こす。どの監査式でも算出不能で――」
途中でリリィが割り込む。
「それ、昨日森で見つけた簿外苗木と同じ仕組みじゃない? 桁あふれを作って“余剰”に見せかける詐欺」
私はセルを開き、桁あふれマーク“”を指数表記へ変換。=MOD(総魔力,10^12)で余剰を切り取り、=QUOTIENT(総魔力,10^12)で正規値を分離すると、合計欄が二行に割れて真の残高が現れた。
「こ、この数字……準備残高が半分以下に!」
ロジェは蒼ざめた。
「削られた分はどこへ?」
「“世界樹寄進金庫”って副勘定に流し込まれてる」
ティリアがログを追う。転送符号は〈EX–root–γ〉――聞き覚えのない支部コード。
「住所は湖底。湖底工区なんて台帳に存在しないわ」



















