異世界冒険者ギルドの日常 – 第9章:後編

 その夜。湖上に浮かぶ祭り前夜祭会場は提灯で彩られ、音楽と香草蒸し肉の匂いが漂っていた。だが私たちは招待状を断り、湖畔の倉庫桟橋で小舟を借り出す。舵取りはガルド、私とティリアが前甲板で索敵、リリィは船尾で歯車パドルを魔改造。

 「湖底トンネル入口の気圧を下げて潜るよ」

 「数字を読むより沈む方が得意なんだけど?」

 「沈むんじゃなく“減価償却”するんだよ」

 私が笑うと、ティリアは呆れつつも弦に光る水封矢を番えた。

 湖面が月を飲み込むように開き、トンネルのフランジが現れる。無数の水銀灯が点灯し、金の根系パイプが脈打っている。パイプには札束のような魔力タリスマンが咲き乱れ、その先で地下ホールが眩い光に満たされていた。

 「金庫じゃない……魔力を貨幣化する“錬金炉”だ!」

 リリィの声が震える。

 炉心では黒ローブの会計術師たちが計算石を打ち込み、桁あふれの魔力を〈世界樹貨〉へ鋳造していた。鋳型には“EX–root–γ”の制御刻印。

 「祭り当日に偽通貨を一気に流す計画だ」

 セルで炉心とパイプ径を測り、私は急いで仕訳式を組む。

 偽貨=総鋳造量 – MOD(総鋳造量,世界樹法定単位)

 =削除(偽貨)

 式を入力した瞬間、計算石が赤く弾け、鋳造ラインが停止。しかし術師の一人が警報符を投げ、水晶サイレンが鳴り響く。

 「突貫部隊来るぞ!」

 ガルドが前へ出ようとしたとき、床を割って巨大な根が飛び出し、無数の金貨のつららを降らせた。

 「世界樹自体が暴走を!」

 ティリアの矢が連射され、リリィのジャマー弾が根の魔力経路を撹乱するが、根は電磁鞭のように跳ね回る。

 私は唯一残った計算石へ最後のマクロを書き込んだ。

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