異世界冒険者ギルドの日常 – 第11章:前編

 続いてガルドがどしゃ降りを物ともせず大剣をかかえ、リリィは工具鞄に雨避け布を巻いて到着。

 「ねぇ、世界樹祭で配られた“笑顔ポイント”って換金できるのかな?」

 「来年の正決算までは資産計上できない。でも今日の依頼報酬に“笑顔ポイント払い”が混ざるかもしれないから、備忘仕訳だけ用意しておくね」

 午前中は平穏だった。依頼更新、素材鑑定、雨を理由にした報酬遅延の相談――いずれも数字と笑顔で片付く軽い案件。

 しかし昼前、扉を激しく叩く音が響く。

 「緊急連絡だ! 北方開拓地ベル=フェルドで“空白領収書”の大量流通が発覚!」

 飛び込んできたのは監査院の伝達士。雨水で濡れた外套を払うと、封蝋の割れた報告書を掲げた。

 「空白領収書?」とユウト。

 「金額と受領印だけが消え、決済システムをすり抜ける魔術式。物資は払われず、在庫が蒸発している」

 伝達士は震える指である数を指し示す。

 ――在庫消失量、二週間で三千件超。

 ティリアが眉をひそめる。

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