異世界冒険者ギルドの日常 – 第11章:前編

 「僕も同行を!」

 「まだ君は研修中だ」ユウトは首を振るが、財布から銀貨を一枚取り出し手渡した。

 「これは“空白領収書”じゃない。君がトリスに残って、在庫が消えてないか監視してくれ」

 少年は拳を握り、銀貨を大事に胸へしまった。

 雨の中、馬車が北門を抜ける。車輪が水たまりをたたくたび、桜色チェインメイルが淡い虹を映した。

 ユウトは旅程シートを確認しながら呟く。

 「次の決算は空白を埋める帳簿。数字を“有”にして笑顔を残す。僕たちの仕事、まだ続くね」

 ティリアは小さく笑い、矢筒を撫でる。

 「窓口が戦場なら、道中だって受付カウンターよ」

 灰色の空の向こうで、北風が冷たい帳簿を開こうとしていた。

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