異世界冒険者ギルドの日常 – 第11章:後編

 ガルドが先頭で突入すると、内部は石室。中央に鉄製ストーブ、煙突代わりの煙晶管から煉香が噴き上がる。

 ストーブ上の投函口には“領収書紙”が束ねてセットされ、ひときわ大きい魔術刻印の歯車が時刻ゼロを示して回り続けている。

 「燃やせば空白。魔香は在庫情報を吹き飛ばす溶剤だ」

 ユウトはセルにカウンターを同期させ、用紙の枚数と歯車比を式へ入力。

 =OFFSET(在庫セル,-用紙枚数,0)

 「紙を減らすと在庫が戻る。逆に紙束を∞へ増やせば帳簿が破裂し、トリック自体が無効化できる」

 リリィの手が止まる。「歯車比を無限には回せない」

 「なら“指数をゼロ乗”にする」ティリアが矢尻で歯車軸を示す。

 ユウトは矢尻に《ゼロ指数》の関数を刻み、ストーブ歯車へ叩き込んだ。

 軸が甲高く悲鳴を上げ、刻印の数字がすべて0¹=1へ書き換わる――紙束は一瞬で燃え尽き、煉香が消失。

 火元が沈黙したと同時に、老人の帳簿に在庫数値が一斉に帰還した。

 「戻った……! 麦も薬草も!」

 ガルドは天井の換気穴を蹴り破り、冷気で残る香煙を散らした。

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