異世界冒険者ギルドの日常 – 第11章:後編

 「だが発行装置は各倉に点在するはず。誰かが巡回して補充している」

 ティリアは外に矢を放ち、雪面へ突き刺した。白銀の闇に三つの人影が浮かび、音もなく消える。

 「追跡班が先回りしたか。まだ本丸は見えてないわ」

 ユウトは復元された在庫ログを束ね、老人へ手渡した。

 「これは貸借対照の“資産復活”です。引き続き監視を」

 「はい、命に代えても守り申す!」

 テントへ戻る途中、リリィがポータブル炉の燃料残量をチェックしながら呟く。

 「在庫は戻っても犯人は捕まってない。このままじゃ数字が“再び空白”になるよ」

 ユウトは頷き、吹雪の向こうの北空を見上げた。星一つ見えない闇に、薄く光るセルの海が浮かぶ。

 「空白セルは入力を待つ箱。犯人が数字を奪うなら、こちらから“記載済み”を流し込んで空白を埋めるしかない」

 ティリアが矢筒を軽く叩く。

 「囮在庫で釣る?」

 「そう。次の倉へ先回りして、空白領収書に“数字の罠”を仕込む」

 風が一際強く吹き、雪煙が旅団の足元を覆った。

 北の帳簿はまだ白紙を抱えたまま、静かに決算日を待っている――ユウトたちはその白紙へ、次の数字を書き込む準備を始めた。

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