運命のレシピ – エピローグ

 二人は笑い合い、スケッチブックの余白に最初の旅の日付を書き込んだ。202X 年 9 月 ―― バレンシア。

 その夜。ディナーのラストオーダーを終えたテラス席で、リナは満天の星を仰いだ。遠くの畑からは白雪ニンジンの花が放つ蜂蜜のような甘い匂い。タケルが隣でワインボトルを傾け、小さく乾杯する。

 「……半年で、こんなにも人の笑顔が集まるなんて想像してなかった」

 「君のスープが呼び寄せたんだ。数字じゃ測れない価値って、こういうことだね。」

 グラスを合わせる澄んだ音が夜空に溶け、星座の合間へ消えていく。

 店内から聞こえる食器の片付け音、ハーブを撫でる風、子どもたちの笑い声の残響――それらすべてが一つに重なり、ふたりには新しい楽譜の前奏のように聞こえていた。

 リナは胸ポケットから祖母の形見の万年筆を取り出し、スケッチブックの裏表紙に短く書き足した。

 《To be continued on every plate.》

 タケルが隣で肩を寄せ、「次はどんな香りを探しに行こうか」と囁く。

 夜空を滑る涼風が答えるように、白雪ニンジン畑を揺らした。甘い匂いが再び立ちのぼり、二人の未来をやさしく包み込む。

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