ニューロネットの夜明け – 第6章:意識統合の危機|前編

ビアンカはそう言いながら、観察ルームにいる人々の生体モニターを切り替える。モニターには脳波のパターンや神経伝達物質の変動が、グラフや数値でリアルタイムに示されていた。特定の振幅が高まると、被験者同士の感覚共有が強まっている可能性を示すとされる。彼女はその状態に心を躍らせるように画面を食い入るように見つめていた。

「人々がそれぞれの思考や感情を分かち合えば、もはや争いは起きない。言葉の壁、偏見、誤解……そんなものはすべて消え去るわ。私たちはもうすぐ、新たな段階へと進むのよ」

助手の研究員は、ビアンカの熱弁を聞きながらどこか不安げな表情を浮かべる。被験者の中には既に高いストレス反応や錯乱症状を示す者が出ており、実験の安全性には疑問がつきまとっていた。しかしビアンカはまったく意に介さないように見える。

「セキュリティの強化もお忘れなく。先日の情報流出や、外部からのハッキング兆候がある以上、何があってもおかしくありません」

後ろで控えていた警備責任者が低い声で進言すると、ビアンカは顔を横に向け、きっぱりとうなずく。

「もちろん。警備を二倍に増やして。被験エリアやデータサーバールームへの出入りは、私の許可なしには厳禁。不審者や情報漏洩に関しては一切容赦しない。私たちの研究が遅れることは許されないわ」

そう言い放つと、ビアンカは実験進行表が映し出された端末を指先でスクロールする。そこには“プロジェクト・シナプス”の大規模実験に向けたスケジュールが、刻一刻と近づいていることが示されていた。あと数日もしないうちに、複数の実験群が同時に稼働し、多数の被験者が意識をリンクさせられる予定になっている。

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