ニューロネットの夜明け – 第6章:意識統合の危機|前編

ネット上でも既に論争が始まっているという報告がインフォリベレーションのメンバーから入る。意識共有技術に肯定的なグループは、「誤解や言語の壁がなくなれば社会は平和になる」と熱狂する一方、否定的な人々は「個人の尊厳が侵される」「大量監視社会の始まりだ」と警鐘を鳴らす。両者の対立は激しく、真実がかき消されがちな状況だ。

「情報をリークしても、政府は“捏造だ”とか“安全対策は万全”なんて言い張るかもしれない。企業側も学者や専門家を呼んで“問題ない”と主張するだろう」

エリカは苛立ちを隠せず、テーブルを軽く叩く。サイモンはそんな彼女に目を向け、落ち着いた口調で答える。

「わかってる。でも、黙っていたらビアンカたちの実験は一気に拡張される。まずは情報を出して、世の中の目をここに向けることが大事だ。そうすれば、阻止に動こうとする人間が増えるかもしれない。俺たちだけでどうにかできる問題じゃないからな」

エリカは過去のトラウマを押し殺しながら、うなずく。ここで踏みとどまれば、本当に意識統合が現実のものとなり、人々の自由が失われるかもしれない。ビアンカが率いる研究所では、被験者が次々に集められ、実験が加速している。それを止めるための時間はそう多くないはずだ。

「わかった。リークと同時に、私もハッキングでさらに証拠を押さえられないかやってみる。研究所の実験記録や、ビアンカの直接の発言が残っていれば、説得力が増すかもしれない」

エリカはモニターに映る被験者の一覧を睨みつつ、脳内チップを通じてアクセス可能なサーバーを探索する準備を始める。何か決定的な証拠が見つかれば、世論の流れを変える可能性がある。

サイモンは周囲のメンバーに対して、「準備が整い次第、一斉拡散に移る」と指示を飛ばす。インフォリベレーションのメンバーはそれぞれの端末に向かい、ネットワークのルートやSNS拡散用のアカウント群を整えていく。

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