しかし、同時に外部から飛び込んでくるニュースでは、「人類の進化」と銘打たれた政府広報の動画がトレンドを席巻し始めているという。まるで彼らのリークを見越してカウンターのプロパガンダを用意していたかのように、巷には「意識統合こそが未来」というポジティブな見解も広まりつつあるようだった。
「もう混乱が始まってる。ネット上は否定派と肯定派に分断されて、真実がどこにあるか見えにくくなってる。政府や企業が情報を巧妙に操作しているのかもしれない」
エリカは複雑な胸の内を吐露するように口にする。これほど大規模な情報操作が行われれば、どんなに証拠を示してもすぐにフェイク扱いされる可能性が高い。
「だからこそ、一気に攻め込まないと。戸惑いがあるうちに確かな情報をぶつければ、少なくとも無視はされないだろう」
サイモンは自信ありげに言うが、その表情の奥には一抹の焦りも見える。ビアンカの計画が進むスピードに、こちらが追いつけるかどうかギリギリの綱渡りなのだ。
一方のビアンカは、研究所での大規模実験に全力を注いでいる。追加の被験者を迎え入れ、セキュリティも二重三重に強化。まるで外界の混乱など意に介さないかのように、自身の理想を突き進んでいる。そうした動きが、一層対立を深刻化させていく。
こうして、意識統合を肯定する派と危険視する派の意見がネット上でぶつかり合い、世の中は混乱の渦へと巻き込まれ始める。そんな中、エリカとサイモンは決死の覚悟でリークを進める一方、ビアンカたちは計画を加速させる。どちらが先に主導権を握るのか、今はまだ見通しが立たない。エリカは噛みしめるようにモニターを見つめながら、危険な賭けを続けるしかないと心を決めていた。
