ニューロネットの夜明け – 第6章:意識統合の危機|前編

一方その頃、インフォリベレーションのアジトでは、サイモンを中心にしたメンバーたちが慌ただしく動いていた。暗い室内には複数のモニターがずらりと並び、研究所内から流出したとおぼしきデータの断片や映像記録が映し出されている。そこには被験者が痙攣のような動きを見せるシーンや、意思に反して実験ベッドに拘束されるかのような映像も含まれており、見る者の心をざわつかせる内容だった。

「エリカ、これが政府研究所からリークされた最新のファイルだ。ビアンカがどうやら大規模実験に踏み切るらしい」

サイモンはエリカに向けてデータを転送しながら言う。モニターには“被験者管理リスト”と称した文書があり、名前や年齢、身体特性などが羅列されている。一部は志願者だが、意図が不透明なまま連れてこられたと思しき人物の記録もある。

「こんな危険な実験を大々的にやって、それを世界規模で展開しようなんて……考えられない」

エリカは思わず声を震わせる。自分の幼少期に体験した“意識への侵入”の苦痛がフラッシュバックするかのようだった。強制的に意識を結びつけられれば、個人の自由はどこへ消えてしまうのか。

「だからこそ、俺たちはこの情報を一気に世間に広める。目覚めさせるんだ。この実験の本質がいかに危険か、知ってもらう必要がある」

サイモンの言葉に周囲のメンバーもうなずき、複数のコンピュータでデータの拡散準備を進めている。目的は、SNSやニュースサイト、匿名掲示板などあらゆるネット空間に同時多発的に情報をリークすることだった。大規模実験が強行される前に世論の関心を一気に集め、政府の計画に圧力をかけようという算段だ。

「ただし、相手も手をこまねいてはいない。政府も企業側も、“意識統合は人類の進化に必要”といったポジティブなイメージでプロパガンダを繰り返し始めている。安全面の保証を謳い、チップ社会がさらに便利になると煽ってる」

別のメンバーがそう告げると、モニターの一つでは政府広報用の動画が再生される。そこには「意識共有がもたらす安心と効率性」などのキーワードが踊り、穏やかな音楽と共に未来都市の映像が流れていた。

「まるでイメージ広告……。こんなものを見たら、危険性を知らない人は“人類の進歩”に期待を寄せてしまうかも」

エリカは苦々しい表情を浮かべる。プロジェクト・シナプスの一端を知る自分でさえ、思わず“便利そうだ”と錯覚しかねないほど巧妙に作られた映像だった。

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