ニューロネットの夜明け – 最終章:夜明け|前編

ネット上では多くの議論が湧き、街角のモニターや大型スクリーンにも緊急報道が連日流れる。政府要人たちは記者会見で曖昧な釈明を繰り返すが、メディアや野党議員の追及は熾烈を極め、「国民の生命と自由を脅かす陰謀だ」と糾弾の声が大きくなる。ヴァル・セキュリティ側の幹部も何人かが辞職や逃亡を図り、企業内部は混乱の色を深めていった。

そんな中、人々の間で急速に広がったのが、ニューロチップ使用への規制要望だ。もはや生活基盤の一部と化したチップではあるが、今回の騒動をきっかけに「いったいどこまで安全なのか」「プライバシー保護は本当に担保されるのか」という疑念が一気に噴出する。署名活動や抗議デモが各地で起こり、法整備やチップの任意外しを認める制度を求める声がやかましく叫ばれるようになった。

エリカとミアは、そんな激動の様相をアジトのモニター越しに見守っていた。あの夜の研究所突入以降、身を隠すようにして内部から崩壊していくプロジェクト・シナプスの余波を観察している。彼女たちが暴いた情報や破壊したメインフレームの影響は大きかったのだと、改めて実感する瞬間でもあった。

「まさかここまで大事になるとは……」

ミアが端末を触りながら呟く。SNS上では意識統合を警戒する派と、依然としてテクノロジーの可能性を信じる派が激しく意見をぶつけ合っている。

「でも、これだけのスキャンダルになれば、さすがに政府も企業も簡単には元に戻れないはず。ニューロチップの規制や、利用者のプライバシー保護に向けた法整備が進むだろうね」

エリカは頷きつつも、どこか複雑そうな表情を浮かべる。

「ただ、根本的にチップ社会が変わるかどうかはわからない。便利なものを手放したくないって気持ちは多くの人が抱えてると思う。結局、法律や制度だけで心配がなくなるわけじゃないわ」

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