ニューロネットの夜明け – 最終章:夜明け|前編

一方、インフォリベレーションのメンバーたちは、今回の大勝利とも言うべき成果を手にしながらも、内部で「今後も潜伏し続けるのか、それとも堂々と名乗りを上げるのか」という議論が起きている。ラディカルな行動を続ける強硬派と、今回のリークで社会をある程度動かせたことに満足し、消えるように散っていく穏健派。それぞれが様々な形でアジトを離れていきそうだ。

こうして、プロジェクト・シナプスという巨大な陰謀が頓挫したことで、世界は大きく動き始めた。政府と企業は激しい批判にさらされており、法整備や責任追及はこれから長い時間をかけて進んでいくだろう。レオナルドが公の場でどのように証言するのか、あるいは裏取引で新たな保護を受けるのか――その行方については、未だ確かな情報が報じられない。

エリカはアジトの扉を開けて外に出る。朝の冷たい風が頬を撫で、まぶしい朝日が視界を染める。夜明けの光は新たな始まりを告げているようにも感じられ、彼女の胸にはかすかな解放感が芽生えていた。プロジェクト・シナプスが崩壊した今、誰もが次の一歩を考え始める時期に来ているのだろう。

アナログな倉庫の裏手で佇むエリカは、遠くに見える都市の高層ビル群を見つめる。あの場所では、今もなお無数の人々がニューロチップを使いながら日常を営んでいる。そして、意識統合という危ういテクノロジーの痕跡が残っているかもしれない。彼女は拳を軽く握り、胸の内で言葉にならない決意を固める。

少なくとも、あの研究所で進められた理不尽な実験は止まった。だが、テクノロジーへの過度な依存と、権力の暴走が再び人々の自由を脅かす可能性は消えたわけではない。夜は明けても、いつまた闇が訪れるかわからないのだ。エリカはそんな予感を抱きながら、それでも歩き出す。これからどんな道を選んだとしても、以前のように一人で戦うだけではないと思える――そんな微かな希望を胸に、彼女は倉庫の前を照らす朝日のなかへと足を踏み出していった。

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