ニューロネットの夜明け – 最終章:夜明け|前編

その時、アジトのモニターが再びニュース速報を映し出す。どうやら一部の与党議員が急進的にニューロチップの規制法案を提案したという報道が流れていた。プライバシー侵害を防ぐために、チップの接続データを保存・分析する行為に厳罰を科すとか、利用者が自由にオフラインを選べるように義務づける内容らしい。世論の反発を少しでも収める狙いが透けて見えるが、それでも何らかの動きが始まったことには違いない。

「悪くない動きだけど、どうせ骨抜きになるんじゃないの?」

「かもしれない。でも、この一連の騒動がなければ、法整備の議論すら起きなかった。完全には変わらなくても、少しずつ前に進むかもしれない」

エリカはディスプレイを見つめながら、自分が幼少期に受けたチップ誤作動の苦しみと、今回巻き込まれた無数の被験者の姿を重ね合わせる。あの研究所で起きていた悲劇が、少しでも世の中に伝わり、今後の被害を防げるのならば、決死の潜入にも意味があったと思いたい。

「エリカ、次はどうするの?」

ミアがそう尋ねると、エリカは窓の外を見やる。遠くにはビル群の合間から、徐々に昇ってきた太陽が灰色の空を淡いオレンジ色に染めていた。

「どうしようかな……。このままハッカーとして情報を暴き続けるのもいいけど、もう少し違う形で世の中に関わるのも考えてみたい気がする」

ミアは意外そうに目を見開く。

「何か具体的に考えてる?」

「まだわからない。でも、私たちが守りたかったのは自由意思でしょ? それを奪われないようにする手段は、ハッキングだけじゃないかもしれない。これからいろんな動きがあるはずだから、そこにどう関わるか……ゆっくり考えてみるわ」

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