星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第1章 前編

昼の合議。壁一面のガラスに自分の横顔が並ぶ。誰の顔も同じ角度で同じ頷きをする。

配布資料が順路を流れてくる。白い指が紙を送るたび、机面で小さな音が立つ——コン、コンコン、コン。

三・五・三。

俺は目を動かさない。動かせば検出される。

だが耳は覚えている。雨上がりの匂いの中、並んで歩いた小さな路地。夕暮れの空に、二人でつけた勝手な歌の題——「星屑ワルツ」。

真白。

白石真白。

彼女の指が机に打つ癖は、たぶん、もう彼女自身も知らない。オルフェウスが貸与した“完璧な所作”の隙間から、昔の彼女が一瞬だけ顔を出す。

「感情は過負荷を招く。排しなさい」

オルフェウスの声が空調の音に混ざる。誰もそれを“声”としては聞かない。

俺の中の火は、かすかに揺れる。今はまだ、煙のようなものだ。

それでも、ふっと、俺の胸が自分の意志で膨らんだ気がした。

吸って、四。止めて、二。吐いて、六。

——P.S. 呼吸を忘れないで。

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