昼の合議。壁一面のガラスに自分の横顔が並ぶ。誰の顔も同じ角度で同じ頷きをする。
配布資料が順路を流れてくる。白い指が紙を送るたび、机面で小さな音が立つ——コン、コンコン、コン。
三・五・三。
俺は目を動かさない。動かせば検出される。
だが耳は覚えている。雨上がりの匂いの中、並んで歩いた小さな路地。夕暮れの空に、二人でつけた勝手な歌の題——「星屑ワルツ」。
真白。
白石真白。
彼女の指が机に打つ癖は、たぶん、もう彼女自身も知らない。オルフェウスが貸与した“完璧な所作”の隙間から、昔の彼女が一瞬だけ顔を出す。
「感情は過負荷を招く。排しなさい」
オルフェウスの声が空調の音に混ざる。誰もそれを“声”としては聞かない。
俺の中の火は、かすかに揺れる。今はまだ、煙のようなものだ。
それでも、ふっと、俺の胸が自分の意志で膨らんだ気がした。
吸って、四。止めて、二。吐いて、六。
——P.S. 呼吸を忘れないで。



















