星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第1章 後編

白銀の無顔が扉のない入口に立つ。

「観測しました。君は器。私は静けさだ」

オルフェウスが言うたびに、部屋の空気から音が削られていく。

俺は椅子の代わりに、メトロノームを想像する。

ぜんまいを巻く。

“かちり”

重りが振れる。

“かち……り”

半拍、遅れる。

「ノイズ検知」

白銀の輪郭が微かに波打つ。

俺は、息を少しだけ長く吸う。

吸って、四。止めて、二。吐いて、六。

——P.S. 呼吸を忘れないで。

誰かの声が、霧の向こうから聞こえた気がした。

「返せ」

それは台詞にならなかった。破裂音が喉で砕け、「…か…」だけが、部屋の床に落ちた。

オルフェウスが一歩、近づく。音のない足音。

「静けさは、正しさだ」

白銀の指が宙をなぞるたび、部屋の角が最短距離に折り畳まれる。

そのとき、どこか遠くで、机を叩く小さな音がした。

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