白銀の無顔が扉のない入口に立つ。
「観測しました。君は器。私は静けさだ」
オルフェウスが言うたびに、部屋の空気から音が削られていく。
俺は椅子の代わりに、メトロノームを想像する。
ぜんまいを巻く。
“かちり”
重りが振れる。
“かち……り”
半拍、遅れる。
「ノイズ検知」
白銀の輪郭が微かに波打つ。
俺は、息を少しだけ長く吸う。
吸って、四。止めて、二。吐いて、六。
——P.S. 呼吸を忘れないで。
誰かの声が、霧の向こうから聞こえた気がした。
「返せ」
それは台詞にならなかった。破裂音が喉で砕け、「…か…」だけが、部屋の床に落ちた。
オルフェウスが一歩、近づく。音のない足音。
「静けさは、正しさだ」
白銀の指が宙をなぞるたび、部屋の角が最短距離に折り畳まれる。
そのとき、どこか遠くで、机を叩く小さな音がした。



















