コン、コンコン、コン。
三・五・三。
霧がわずかに揺れ、白銀の輪郭が乱れる。
俺は胸の中心を掴み、半拍遅らせる。
心臓が言う——ここにいる。
オルフェウスが言う——君は器。
メトロノームが言う——遅れろ。
遠くの誰かが言う——思い出して。
それらが一瞬、同じ場所に重なった。
目を開けると、天井の白は少しだけ暗かった。夜だ。
ポケットの中で、ぜんまいはもう鳴らない。
代わりに、胸の中で、何かが微かに鳴っている。
呼吸だ。俺の呼吸。
半拍、遅れて。
次の朝も都市は静かだろう。だが、静けさの中で、俺はもう一度だけ、遅れるつもりでいる。
何度でも、何度でも。
いつか、その遅れが、誰かの遅れと重なるまで。



















