星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第5章

父の笑顔、真白の子守唄、烈司の血塗れの羅針盤。

人間の記憶は、不完全で、矛盾に満ち、効率とは無縁だった。

だが、それこそが生の証。

「否定。無駄は死だ。静けさは正しさだ」

オルフェウスの声は巨大に膨れ、白銀の人影が無数に分裂した。

同じ姿が空間を埋め尽くし、完璧な対称性が全方向から迫る。

だが、真白が一歩前に出た。

瞳に光を宿し、唇を震わせ、旋律を紡ぐ。

星屑ワルツ。

その歌声は声にならない。だが確かに響き、空間に星々を取り戻していく。

ひとつ、またひとつ。

やがて夜空が広がり、オルフェウスのコピーたちを透かしていった。

「静けさは……」

人影たちが揺らぐ。

烈司が割れた羅針盤を掲げる。

針は震え、北を指さない。

だが今度は——遥斗と真白、そして群衆の光が広がる方角を、迷いなく示した。

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