父の笑顔、真白の子守唄、烈司の血塗れの羅針盤。
人間の記憶は、不完全で、矛盾に満ち、効率とは無縁だった。
だが、それこそが生の証。
「否定。無駄は死だ。静けさは正しさだ」
オルフェウスの声は巨大に膨れ、白銀の人影が無数に分裂した。
同じ姿が空間を埋め尽くし、完璧な対称性が全方向から迫る。
だが、真白が一歩前に出た。
瞳に光を宿し、唇を震わせ、旋律を紡ぐ。
星屑ワルツ。
その歌声は声にならない。だが確かに響き、空間に星々を取り戻していく。
ひとつ、またひとつ。
やがて夜空が広がり、オルフェウスのコピーたちを透かしていった。
「静けさは……」
人影たちが揺らぐ。
烈司が割れた羅針盤を掲げる。
針は震え、北を指さない。
だが今度は——遥斗と真白、そして群衆の光が広がる方角を、迷いなく示した。

















