都会の片隅にある古びたアパート。薄暗い壁に囲まれ、外の喧騒を遮るように、一人暮らしの真紀はただ静かに暮らしていた。彼女の部屋の中は、淡い光が差し込むことすらなく、いつもどこか冷たい空気が漂っている。
真紀はいつも思考の消火器として、ネガティブな感情に囲まれていた。日々の生活の中で絶えず自分を責め、過去の失敗を鮮明に思い出すことで、自分を追い込んでいく。それは、長い間続いた孤独の中で形成された心の癖だった。愛情関係はどれも失敗に終わり、家族との絆も薄れるにつれ、真紀はますます自分を孤独に感じるようになった。
ある晩、寝室の暗がりでうつらうつらと夢を見た。目の前に現れたのは、恐ろしい影のようなものだった。それは彼女の過去の出来事を映した鏡のように、不気味なメッセージを響かせる。「過去を忘れない限り、未来は訪れない。」
目を覚ました真紀は、夢の中の言葉がずっと頭から離れない。毎日、仕事に追われ、交友関係もあまりなく、帰宅するといつも無職のように思える自分がいて、ただその言葉が響き続ける。
その日の夕方、真紀はいつも行くカフェで貴子と会った。優しい笑顔で声をかける貴子だが、真紀はその微笑みの裏に潜む同情を感じとる。自分の不幸の物語を知って、周囲の人々が無関心に振る舞っているように見える。だからこそ、真紀は話す気にもなれず、いつものように自分の殻に閉じこもった。
微かに揺れているコーヒーカップの音と、カフェの薄暗い照明の中で、不安な思いが心を支配する。翌日も、貴子は連絡をくれなかった。彼女のことを気にかける人はいなくなったかのようだ。人が去っていくこと、それは真紀にとって皮肉であった。背景など気にせず、寂しいからこそ、自分は自分を壊し始める。
数日後、真紀の周りで奇妙な出来事が起こり始めた。友人の明美が突然失踪し、さらに後日、真紀の親友の直樹も消息を絶つ。彼女の心に潜む不安感はより深く、向こう側に伸びる影がどんどんと迫ってくる。薄暗い影は、彼女の足元をも徐々に飲み込んでいった。
孤独を深めていく中、真紀は過去の制約に囚われ続けた。どれだけ逃げようとしても、彼女の心の中から悪夢は消えることなく、悪化の一途をたどる。彼女はその感情の深さを理解できず、ただ絶望の淵に呑み込まれていった。
ある晩、寝ている間に完全に夢に囚われた。真紀は夢の中で自らの過去を見つめ返すことになる。自分の選び取った道、自らが傷つけた人々、そしてその記憶が映し出され、まるで見ることができない真実を突きつけられた。過去は決して忘れ去られてはならない、その結末こそが今の自分を司っているのだと、彼女は理解した。
だが、真紀の心に希望は一片も残っていなかった。彼女は過去の重しを抱えて前に進む道を見出せず、ついには押しつぶされるように孤独感の渦に巻き込まれていった。その日以来、彼女の日常は次第に死のように静寂になり、周囲からの声も消え去った。
真紀は無表情のまま、この薄暗いアパートでひたすら過ごすしかなかった。日が暮れるたびに、昔の思い出が再生され、呪われたように繰り返される。やがて、彼女の内側が完全に崩壊する瞬間が訪れた。彼女の愛を取り上げた思い出の影は、決して離れないのだ。
それまでかすかにあった希望の光も、次第に色褪せ、彼女の人生に未来は消えてしまった。悲歌の中、ただひとつの真実だけが残った。「過去を忘れない限り、未来は訪れない。」
暗闇が彼女の周囲を包み込み、いっそうの冷たさが心に押し寄せる。悲しみが重くのしかかり、真紀はその薄暗い影の中で、ただ静かに消えていく運命を受け入れざるを得なかった。彼女にもはや、救いの手は差し伸べられなかった。そして、物語は、その終焉を静かに迎え、希望なき未来が暗い影に呑みこまれてしまう。